紫式部とワーグナーの共通点
「源氏物語」（紫式部/角川書店編）
角川ソフィア文庫
どの帝のころだったか、
女御や更衣と呼ばれる
何人もの妃が仕えていた、
その中に、
女御より下位の更衣だが、
帝の寵愛を独り占めしている
妃がいた。
自分こそ第一の妃と、
うぬぼれていた女御たちは、
下位の更衣に出し抜かれて…。
源氏物語。
日本が世界に誇る
古典文学作品であるとともに、
今まだ色あせることのない
日本文学の最高傑作であるといえます。
とはいえ古典であり、
現代語訳も長大な作品、
おいそれと手をつけることが
できないでいた時期がありました。
そんな私がまず手始めに
取りかかったのが本書です。
何度か紹介しました。
この角川文庫の
ビギナーズクラシックスは、
古典に親しむ入口として
貴重な存在です。
源氏物語を読みたいけれど、
全巻購入するのはお金がかかるし、
長くて読み通せるか自信がない、と
心配する人は、この本でぜひ、
源氏物語のエッセンスに
ふれてほしいと思います。
他の解説書とちがい、
｢あらすじ｣→｢現代語訳｣→｢原文｣の
順に並べられ、理解しやすいのです。
解説も充実していて、
巻末資料には紫式部の年表やら
登場人物の家系図やら、
これでもかと掲載されています。
また、さらに学習を深めるための
書籍案内まであります。
実は私、源氏物語を読み始める以前に、
こんな文章を
当時のブログに投稿していました。
｢私はせめて、現代語訳にしたものを、
死ぬまでの間に
一度読んでみたいと思っています。
それがいつになるのか。
もしかしたら退職した後になるかも。｣
思い立ったらいたって簡単でした。
1年間で寂聴訳と谷崎訳の
両方を読了できました。
それは本書に触れ、
源氏物語の魅力の一端に
浸ることができていたからです。
さらには
こんなことまで書いていました。
｢そもそも源氏物語全五十四帖を、
原文で最初から最後まで
しっかり読み通した人は、
研究者の方以外で、
この現代日本に何人いるのか。
原文を入手するだけでも大変。
ましてや、
それを全部読み通すなんて。｣
それも古書をあたって
原文(阿部秋生校訂･小学館)を購入し、
今、読み通そうとしている次第です。
さて、この源氏物語を読むと
いつも連想してしまうのが
ワーグナーのオペラ
｢ニーベルングの指輪｣です。
｢指輪｣も｢源氏物語｣も、
長大かつ壮大かつ重厚な作品ですが、
共通して描かれているのは
(俗な表し方をすると)
｢もつれにもつれた男女関係｣と
｢男たちの権力争い｣です
(こんなことを書けば、
熱心に研究している方々から
｢けしからん｣と
お叱りを受けそうですが)。
第一帖｢桐壺｣から
第五四帖｢夢浮橋｣まで、
描かれる時代は七十数年。
そのほとんどが男女の色恋ものです。
そして背景には平安時代の
壮絶な権力争いが存在しています。
紫式部は
ワーグナーに先駆けること千年。
壮大な絵巻を
歴史に刻み込んでいたことに、
改めて気づかされます。
〔｢源氏物語｣全文はこちらがお薦め〕
読みやすさという点では、
やはり寂聴訳でしょう。
サクサク読むことができます。
ただし性愛部分の描写がやや濃厚です。
最新の現代語訳としては
角田光代訳が挙げられます。
こちらは文庫化されていませんが、
全文を読むとすれば
むしろ価格は安上がりです。
原文に注解･補訳を付したものとしては
岩波文庫がお薦めです。
こちらは読み込むのが
たいへんかも知れません。
いずれにしても一気に読もうとせず、
他の本と並行させて読み進め、
時間をかけて取り組むのが
いいと思います。
（2020.2.28）
【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09 葵
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25 蛍
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41 幻
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋
【角川ビギナーズ･クラシックス】
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